2025年11月7日金曜日

小説評4

 


『名もなき星の哀歌』結城真一郎

人の記憶を取引きできる店での仕事という設定のもと、緻密なプロットで、ミステリーでありながら星空的ロマンを感じさせる物語が紡がれている。謎が解けていくに従って切ない真実が予感され、惹き込まれる先は遠く悲しい恋の歌。


『重力ピエロ』伊坂幸太郎

壁のラクガキと遺伝子をキーにして前衛的に展開していく物語。軽快な機知と斬新さが伴われながらも、登場人物の各人が強い感情や意志を持って群像してドラマティックで、謎解きに伴う悲劇が鮮やかに胸に迫る。


『ノルウェイの森』村上春樹

幾つかの交情が描かれるが、特にヒロイン直子さんとの恋愛が主人公にも読者にも忘れられない想いを残す。人の存在やその一部、そして命が、損なわれていく哀愁と喪失感。そんな霧の追憶の中、「私のことを忘れないでいてくれる?」が響き続ける。


『荒野のおおかみ』ヘルマン・ヘッセ

精神的なものを忘れ物質的享楽に溺れる文明に批判的で、市民の表面的な社会にも懐疑的なアウトサイダーの苦悩が描かれる。ユング心理学でいう"アニマ"の外在化たる女性ヘルミーネに導かれ、著者自身のものでもある内的体験が展開される精神的傑作。


『白夜行』東野圭吾

迷宮入りした殺人事件の周辺にいた少年と少女。2人のその後の19年間には周囲に様々な恐ろしい犯罪が影を見せる。人気の大衆作家の小説でありながら、19年間の登場人物2人の歴史や人物像に文学性が宿されている叙事詩的傑作。


『読書する女』レイモン・ジャン

家を訪問して声に出して本を朗読するという仕事を始めた女性主人公。訪問先の客たちとの交流でちょっとした出来事がいろいろ起こる。癖のある客とのやりとりが生き生きと描かれている。最後、サド侯爵の本が絡む男性3人との場面がコメディとして面白い結末。

2025年11月6日木曜日

鳩の祈り

 空は巨大な葉で 階段で 切断され

家々の会話は太陽を見れなくなった

創られた罪の花火が夜まで出血させ

私は鳩になるしかなかった


降らない命の涙の代わりに

呪われた肺からあの時の酒と血を流そう

明日の劇場に新しい平和の柱が在れ!

2025年11月4日火曜日

ジグソー

  あらゆるリビングルームが弾丸になった夜のパーティたちに、私の今はアイアンメイデンの中を夢想して怯えて傷ついた。そのシミュレーションでは、花はガラス製の刃物、人の言葉はタイプキー、口という口の歯の大群は殺人マシーン。リビングルーム群は世界のコアをマシンガンのように幾千の貫通を描いていた。量子コンピュータは、スズメバチの巣に冷たい炎が吹き抜けるように稼働していた。人のあらゆる暮らしは飛び散った。

 私にしか見えなかった世界の欠片の億千の散乱。欠けたピースは私の骨で補うから、災禍が見えている限りは、あるべき心と街のフラクタルを取り戻すための歩行と声を。モニュメントが歯車となってしまうことがあっても、失われた秩序がまた薔薇となって形になるまで。パラレルワールドを呼んだ朝……。

2025年11月2日日曜日

私はA子

 今から打ち合わせに行かないと……まず起きてからカーテンを開け、昼の日差しを髪と手首に浴びた。昨日は27時まで1人で飲んでいてたけど、心をお酒に泳がせて捕まえた真理はひとつだけ。

「私は今、歌ってあの世に行くしか生きる方法のない、アンプに繋がれたマネキンのような女」

あの人たち、ギターやベースやドラムスは、まだ私の歌声の秘密を知っていない。彼らの心をこっそり飲んでいるこの喉から発するのは、スタジオの音たちすべてをダンスの鱗にして室内すべてを私の小宇宙に閉じ込め、水槽のように彼らを捕らえるスパイダーネット。マリオネットたちになって音楽を奏でている彼らに、アリスが微笑んだことは何回あったかしら。今日も、骨から咲く花々がアリスを楽しませ、私たちの肉体は次の世界への扉を開くといいのだけど……


⭐︎2026/4/18


-続く