『天才少女は重力場で踊る』緒乃ワサビ
極秘かつ私的に開発された未来との通信機。未来からのメッセージに登場人物が翻弄され、タイムパラドックスによる量子の暴走を恐れるという、SF世界でありながらも、青春やその先の愛もくっきり描かれていて、爽やかな感動の読後感。
『母の待つ里』浅田次郎
東京の忙しく都会的な生活に疲れた、別々の事情を持つ3人が、或る田舎へ"里帰り"をする話。序盤で驚きの仕掛けの設定が明かされるも、登場人物が母や里を想う憧憬は本物。都会の人生と対比された里と母の優しさが小説に漂い続ける。
『カラスの親指』道尾秀介
詐欺師であり、過去にヤミ金に生活を篭絡された主人公と、同じ組織に恨みをもつ人物たちが同居し、復讐の作戦を繰り広げる。まさかと思うほどの大きな詐欺を見せつけられる結末で、無数の因縁が晴れていくところが感動しました。
『海辺のカフカ』村上春樹
予言的動機で父のもとを離れ西へ向かう少年。怪現象を伴い生きる初老の男性も或る事件から西へ。二世界が並行的に語られ、やがて交錯。作中人物の歌詞と有名なギリシャ悲劇の内容が、夢の回路の現実化を通して、主人公の周囲に重なり巡る。不思議な読書体験。
『アヒルと鴨のコインロッカー』伊坂幸太郎
平凡な大学生が主人公の現在と、ペットショップ店員が主人公の2年前の両サイドが交互に進行。広辞苑を盗もうともちかけられた大学生が、2年前の物語にだんだんと参入する。日常から少し逸脱した事件群の中でのそれぞれの登場人物のドラマが面白い。
『ある微笑』フランソワーズ・サガン
とりとめのない倦怠を持って生きるパリの20歳の女が、中年の既婚者と、最初はちょっとした興味から不倫し、恋に落ちる話。二人で出かけるカンヌの描写、主人公の内面の移ろいの表現などの、全ての叙述が文学的で、小さな孤独を抱える彼女のラストの微笑を説明つくしている。
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