2025年4月11日金曜日

私を刺し抜いて

 

サイキ「私 今は天使で あなただけを殺すの」

ソフィア「貴方は誰だったの? それはタナトス」

サイキ「愛でしかなかったことには間違いない。その目と、先にある神殿には失われていく世界があった。その痛みには、窓という窓がタロットカードになったときの、ビルも人も、神経系の植物になるほどの、命の血があった。もっと血を流そうか?」

ソフィア「生きてても仕方ないとはいっても、貴方に私の血を流す権利はどこからきたのかわからない」

サイキ「一人は23世紀に持って行かないと、新しい聖者たちがつまらなくなるだろう。ミューズは常にいても、受肉しなければならない」

ソフィア「私はサクリファイス?]

サイキ「単にタイムリープするだけだと考えてもらえばいい」

ソフィア「目なんていらないけど、今生きてる世界が平和になってほしい。200年後に行ったとして、今生きてる病める命、滅びていく街、崩壊した国の秩序、壊されていく自然は、どうするの」

サイキ「私が妖精にでもなって、アニミズムを起こし続ければいいはなし。とりあえず、21世紀の街々からは逃げなさい」

ソフィア「あなたは私たちより、人が死なないための愛はあるの? それを見るまでこの目は差し出さない」

サイキ「未来の人たちの共同体と、今の人たちの億千の命を、アストレアにお願いして、天秤にかけてもらっている」

ソフィア「恋の日々も大事にしてほしい」

サイキ「恋の日々は消してから、母とグレートマザーに帰ること。月の近くの宇宙ステーションが高層ビルの上に移動したら、月も月経発作で不要なものを浄化して、モルヒネが降り注ぐだろうから」

ソフィア「何言っているかわからない」

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1. オフィス街で

2. 出会いと2回目の出会い

3. ソフィアという命名

4. ヘルメスと2000年代の世界秩序

5. 繁華街の路地裏での出来事

6. サクリファイスは受肉するか?

7. アンドロイドの実験体に出会う

8. 実験室ではなくあの世へ?

9. 未定

10. 新しいボーンコレクター

11. Lady Luck : 血肉のためのエルフとオルフェウスの骨

12. University の書庫

13. ソフィアのための自殺はAirの矢で

14. アストレアの本当の気持ち

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1. オフィス街で

1-1. 梨穂の日記


4月2日

(午前)

早朝、夢で声を聴いて目を覚ました。

「夜が自殺した。朝のために、人の目と爪と髪と肌と服を全て隠していた衣装を、太陽で燃やして」

私といえば聴く音楽は流行りのポップスで、読む本といえば東野圭吾さんの現実味のある事件と解決が書かれたミステリー小説。詩なんてまともに読んだことなかったし、日記を書くのは好きだけど、目で見たことを細かく書きながら、働いたり家でぼんやりしていたときに思ったこととかを、ありきたりに書くだけだった。どこからこんな言葉が降ってきたんだろう……。


朝この夢を見てから、ふと月に大きな槍を飛ばして突き刺す計画が何年か前にあったことを思い出し、実行されたのかしら、成功したとして、それが何の意味になるのかな?……って午前中の間は空想していた。その午前中のオフィスでは、生まれて初めて読んだ詩のような不思議な夢の続きであるかのように、視界の風景は白昼夢のように過ぎて行った。


今日は、新年度あたらしく働くコールセンターで出勤初日なのに。緊張も不安もなく、空気は希薄で、見るものは半分くらい半透明の箱庭の模型みたいで、幽霊が目の前に現れても怖くないような、そんな気分だった。


そして目の奥に赤紫色の水の矢が貫通したような、それでいて意識が透明になって、川に繋がって、見たことない漠然としたイメージがたくさん入ってくるような感覚。ビルの入り口の自動ドアはきっと、これからまたしんどいお仕事をしていく日々へ入るためではなく、新しい未来への予感に満ちた境界面だったのかもしれない。


とにかく今日は、色々なことが起こった。正確に言ったら、なにげない研修初日でありながら、あの夢の声のせいで、人も机やパソコンも日常の世界に色んな穴やドアを開けて、私の心に夢の向こうの世界から語り掛けていたのかもしれない。


15階のビルの8階のオフィスへは、出勤初日だったのにほとんど無意識でたどり着いて、オフィスの入り口に入った先の内線の電話機もほとんど意識せずに行ってたし、電話の先の事務の人と話してる時も、早朝の夢からその時までの記憶が漠然と脳裏をよぎりながら、ただ名前と最低限の挨拶をしていただけだと思う。


オフィスの受付から研修室までは、壁は真っ白で、道は普通より細く感じて(あとで確認したら、そうでもなかった)、どこか迷路といったような感じだった。貰ったばかりの首から下げたカードキーで研修室のドアを開くと、そこにはもう一人の新人女性と、どこか疲れ切っていそうな華奢な男性の研修講師がいた。


新人女性は秋田さん。研修講師は舘(たち)さん。


「舘」といったら高校の時に習った日本史で、ヤマト政権あたりだったかな?豪族が住む、集落の外れの屋敷のことを指す言葉だったと思う。漢字一文字の名前を聴くと、ひらがなで聴いた名前から漢字を自然に想像するけれど、まずその記憶がもやもやしたイメージとなって思い出されて、たちさんが自己紹介するときホワイトボードに「舘」と書いたとき、勝手にこの人は古風な人なんだろうと思った。髪は長くて、目は虚ろな二重で、病弱なのか色が白くて顔色はよくなくて、とにかく疲れていそう。今日の私みたいに、心ここにあらず、といったような感じ。ジャケットは真っ黒に近いグレーで、ネクタイは絞めていない。身長は少し高いけど、あまり男性的な威圧感というものがなくて、細美なのにどこか曲線美のあるシルエット。


秋田さんは、がんばって研修をこなしていくぞというような気概を、終始、手の仕草や姿勢を変えたりするときなどの挙動で放っていた。パンツスタイルのリクルートスーツで、少しだけふくよか。髪はショートで少しだけカールしていて、マニュキュアはしていなかった。


私は研修初日なのに、オフィスカジュアルってメールに書いてあったのを朦朧としていた朝に思い出して、そのあとは自動的に私服の中で少しフォーマルなのを選んでいた。ロングスカートに、襟のついたシャツ。グレーのカーデガン。


私はコールセンターや事務の仕事は慣れていたから、白昼夢みたいな午前の研修の座学は行儀よく座ってホワイトボードを眺め、舘さんの柔らかくも涼しげなナチュラルに頭に入ってくる声と言葉を聴きながら、たぶん問題なく情報セキュリティとか、会社の概要とか、お客様対応の指針とか、理解していと思う。


ランチは近くのカフェに行ったけど、食欲はなくて、自分の体が鎖骨から上しかないような希薄な感覚で、コーヒーとパンだけを頂いた。


コーヒーカップの円形の水面に、私の瞬きが映った。瞼の中に瞳があったかもわからないぐらい、今日の夢みたいな意識では、睫毛の軌跡だけしか見えなかった。


(午後)



-----続く


2025年4月7日月曜日

小説評3



『若きウェルテルの悩み』ゲーテ
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文学や自然を愛する感受性の強いウェルテルは片想いの相手シャルロッテに対する恋情を加速させて女神のように想う。彼女の結婚により、懊悩し命を絶つ。ロッテを取り巻く俗物的な人間関係と、ウェルテルの崇高な内面や田舎の綺麗な自然との対比が印象的。天才が仮託した美しい魂が滅んでいく悲劇はどこまでも悲しい。
『ロカ』中島らも

巨額の印税を抱えた無頼の老年作家が主人公。アルコール、ドラッグ、ロック、反骨など、中島らもらしさが詰まっている未完の小説。ドアーズ、ローリングストーンズなど昔のロックが好きな人には楽しめる要素がいっぱい。擦り切れた心象が多い中、ククへの片思いがピュア。
『サロメ』オスカー・ワイルド

キリストが生きていた時代のユダヤの王女サロメと、救世主の到来を激しい言葉で説く洗礼者ヨハネの話をモデルにした戯曲。芸術至上主義者の表現だけあり言葉が文芸の極みで、サロメの狂った恋とそれが齎した聖書に書かれている悲劇が、完璧な芸術と化している。
『その雪と血を』 ジョー・ネスボ

ノルウェーのマフィア界を舞台に、ハードボイルドであるが善人である主人公が波乱と恋愛のなか殺し屋をやっている話。北欧のクリスマス前の夜の寒さの中、女、ボス、裏切りに翻弄されながらどこか愚直に殺しをする主人公の姿は、雪の中で寂寞のリリカル。

『マツリカ・マジョルカ』相沢沙呼
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廃墟ビルに一人で住む魔女めいた謎の美少女マツリカさんと、主人公の冴えない男子高校生の話。学校の怪談、学校で起こるちょっとした事件を中心としたミステリー以外にも、恋愛や青春など色んな要素があるなか、なによりもマツリカさんの存在感が圧倒的。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹

全く異なった二つの世界が交互に語られて、終盤にいくにつれて両世界の繋がりの秘密が明かされていくという話の構成。世界が失われる悲しみや失われてほしくない願いが両主人公の回想や感慨を通して漂う、その悲哀の表現が文学的。
『プシュケの涙』柴村仁

冒頭で起こってしまった美術部の女子高生の死、その真相を解明していく変人っぽい男子という青春ミステリとして進行しながら、中盤で起こる男子の突然の逸脱行為。最後に近づくにつれその理由がだんだんわかってくる切なさに、恋愛の話としての面白みもある青春小説。