『名もなき星の哀歌』結城真一郎
人の記憶を取引きできる店での仕事という設定のもと、緻密なプロットで、ミステリーでありながら星空的ロマンを感じさせる物語が紡がれている。謎が解けていくに従って切ない真実が予感され、惹き込まれる先は遠く悲しい恋の歌。
『重力ピエロ』伊坂幸太郎
壁のラクガキと遺伝子をキーにして前衛的に展開していく物語。軽快な機知と斬新さが伴われながらも、登場人物の各人が強い感情や意志を持って群像してドラマティックで、謎解きに伴う悲劇が鮮やかに胸に迫る。
『ノルウェイの森』村上春樹
幾つかの交情が描かれるが、特にヒロイン直子さんとの恋愛が主人公にも読者にも忘れられない想いを残す。人の存在やその一部、そして命が、損なわれていく哀愁と喪失感。そんな霧の追憶の中、「私のことを忘れないでいてくれる?」が響き続ける。
『荒野のおおかみ』ヘルマン・ヘッセ
精神的なものを忘れ物質的享楽に溺れる文明に批判的で、市民の表面的な社会にも懐疑的なアウトサイダーの苦悩が描かれる。ユング心理学でいう"アニマ"の外在化たる女性ヘルミーネに導かれ、著者自身のものでもある内的体験が展開される精神的傑作。
『白夜行』東野圭吾
迷宮入りした殺人事件の周辺にいた少年と少女。2人のその後の19年間には周囲に様々な恐ろしい犯罪が影を見せる。人気の大衆作家の小説でありながら、19年間の登場人物2人の歴史や人物像に文学性が宿されている叙事詩的傑作。
『読書する女』レイモン・ジャン
家を訪問して声に出して本を朗読するという仕事を始めた女性主人公。訪問先の客たちとの交流でちょっとした出来事がいろいろ起こる。癖のある客とのやりとりが生き生きと描かれている。最後、サド侯爵の本が絡む男性3人との場面がコメディとして面白い結末。
『天才少女は重力場で踊る』緒乃ワサビ
極秘かつ私的に開発された未来との通信機。未来からのメッセージに登場人物が翻弄され、タイムパラドックスによる量子の暴走を恐れるという、SF世界でありながらも、青春やその先の愛もくっきり描かれていて、爽やかな感動の読後感。
0 件のコメント:
コメントを投稿