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2025年4月7日月曜日

小説評3



『若きウェルテルの悩み』ゲーテ
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文学や自然を愛する感受性の強いウェルテルは片想いの相手シャルロッテに対する恋情を加速させて女神のように想う。彼女の結婚により、懊悩し命を絶つ。ロッテを取り巻く俗物的な人間関係と、ウェルテルの崇高な内面や田舎の綺麗な自然との対比が印象的。天才が仮託した美しい魂が滅んでいく悲劇はどこまでも悲しい。
『ロカ』中島らも

巨額の印税を抱えた無頼の老年作家が主人公。アルコール、ドラッグ、ロック、反骨など、中島らもらしさが詰まっている未完の小説。ドアーズ、ローリングストーンズなど昔のロックが好きな人には楽しめる要素がいっぱい。擦り切れた心象が多い中、ククへの片思いがピュア。
『サロメ』オスカー・ワイルド

キリストが生きていた時代のユダヤの王女サロメと、救世主の到来を激しい言葉で説く洗礼者ヨハネの話をモデルにした戯曲。芸術至上主義者の表現だけあり言葉が文芸の極みで、サロメの狂った恋とそれが齎した聖書に書かれている悲劇が、完璧な芸術と化している。
『その雪と血を』 ジョー・ネスボ

ノルウェーのマフィア界を舞台に、ハードボイルドであるが善人である主人公が波乱と恋愛のなか殺し屋をやっている話。北欧のクリスマス前の夜の寒さの中、女、ボス、裏切りに翻弄されながらどこか愚直に殺しをする主人公の姿は、雪の中で寂寞のリリカル。

『マツリカ・マジョルカ』相沢沙呼
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廃墟ビルに一人で住む魔女めいた謎の美少女マツリカさんと、主人公の冴えない男子高校生の話。学校の怪談、学校で起こるちょっとした事件を中心としたミステリー以外にも、恋愛や青春など色んな要素があるなか、なによりもマツリカさんの存在感が圧倒的。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹

全く異なった二つの世界が交互に語られて、終盤にいくにつれて両世界の繋がりの秘密が明かされていくという話の構成。世界が失われる悲しみや失われてほしくない願いが両主人公の回想や感慨を通して漂う、その悲哀の表現が文学的。
『プシュケの涙』柴村仁

冒頭で起こってしまった美術部の女子高生の死、その真相を解明していく変人っぽい男子という青春ミステリとして進行しながら、中盤で起こる男子の突然の逸脱行為。最後に近づくにつれその理由がだんだんわかってくる切なさに、恋愛の話としての面白みもある青春小説。

2025年4月3日木曜日

小説評2



『読書する女』レイモン・ジャン

家を訪問して声に出して本を朗読するという仕事を始めた女性主人公。訪問先の客たちとの交流でちょっとした出来事がいろいろ起こる。癖のある客とのやりとりが生き生きと描かれている。最後、サド侯爵の本が絡む、男性3人との場面がコメディとして面白い結末。



『白紙の散乱』尾崎豊

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大人のモラルに激しく反逆したシンガーとして有名な尾崎豊だが、この詩集では静かな語調と純粋な眼で、街の風景に佇む悲しみが表現されている。街の風に漂う、傷つけられ汚されていく魂のため息、諦めの混じった祈りが、命の真実をニヒリスティックに点滅させている。



『R.P.G.』宮部みゆき

本当の家族とネットでの疑似家族、リアルとヴァーチャルの間で起こった事件。ロールプレイが繰り広げられる中、色々なレベルでの嘘や虚構によって、人物の真実が徐々に暴かれ、事件の真相が明かされていくという、構造の面白いミステリー。読みやすく品のいい語り口。



『すみれ屋敷の罪人』降田天

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戦時中の不幸と、由緒ある家系と忠義に満ちた使用人たちの切情が生んだ、嘘。老人となった当事者たちが謎につつまれた出来事のそれぞれの局面を語るとき、昔のすみれの屋敷の悲劇が2転3転しながら解き明かされる。悲劇がミステリーの手法で花開いていく涙の傑作。



『とある飛行士への追憶』犬村小六

貧しいが凄腕の飛空士がお姫様を戦闘機に乗せ、敵機の多い戦域を単機で突破する話。全く身分の違う二人だが生死を共にする数日間で芽生える恋が爽やかで切ない。空、海、島などの自然描写が美しく、戦闘シーンは迫力がある。ラストが印象的で絵になってる。


2025年1月7日火曜日

小説評1

 

『精霊の守り人』上橋菜穂子
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水の精霊の卵を産み付けられた皇家の少年を手練れの女用心棒が守りつつ旅する話。人類学者である作家によって描かれた、言い伝えにみられる自然と人間と精霊の共生、皇国の政と原住民神話などの世界観が良くファンタジーや冒険譚としても感動がたくさんある。


『ビルマの竪琴』竹山道雄

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ビルマに出兵した或る日本兵の隊はみんなで歌をよく歌う。竪琴の名手、水島上等兵が居なくなったわけは? アジアの仏教徒の穏やかな文化、対照的な文明国の進歩と戦争の悲惨、それらを感じ取り浮世を捨てた宗教性が、飾りのない言葉で表現されていて素晴らしい。


『夜間飛行』サン=テグジュペリ
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命を懸けて空を航行する飛行士と、地上で夜間郵便飛行の司令にあたる社長の、苦難の一夜の話。飛行士をしていた著者によるリアルな叙述でありながら、あちこちに素晴らしい文学的ポエジーが溢れている。嵐を抜け出したひとときの夜の上空の描写が神秘的。


『嘆きの美女』柚木麻子
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美人たちのお悩みサイトを、ブスとよく言われるニートのオタク女がネットで攻撃していたが…彼女が当の美人たち4人と同居することになり…全く性質の違う美人とブスが一緒に暮らすドタバタの悲喜劇の中、ストレートに言動をぶつけ合い成長していく姿が素晴らしい。


『地獄の季節』アルチュール・ランボー

20歳過ぎでアジアやアフリカの荒野に消えたランボーが残した文学や西洋への絶縁状。野性の無垢な天才が詩で錯乱しながら原初に還っていく時、詩魂の心臓をダイヤモンドにして燃やすかのような散文詩の独白に文学的奇跡の謎の内部が形象されている。


『その女アレックス』ピエール・ルメートル
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始まりはある女が誘拐され監禁されるところから。そしてパリの連続殺人。警察の目は事件が明らかになるにつれ「その女が何者か」にシフトする。真相を推理するミステリーとしても面白いが、1人の悲しい人間の命をかけた復讐劇としても凄い作品。


『時をかける少女』筒井康隆

放課後、理科室で怪しい薬の試験官が割れ、ラベンダーの香りにつつまれた後、少女に不思議なことが。タイムリープやテレポーテーションなどSFの設定のもと、思春期の少女の甘く切ない感情が、不思議な少年の齎した未来現実として素晴らしい結晶と化している。


『プリズム』百田尚樹

多重人格の男の1人格に対する恋の話。病気の背景から説明まで詳しく描かれていて、珍しい疾患についてよくわかるように書かれている。男の病気の治療と女の恋の成就の両立の不可能性が、解消しえないジレンマとなる中、治療が進んでいくのが切なくて感動的。




Xアカウント @Haya23123 より

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