『若きウェルテルの悩み』ゲーテ
文学や自然を愛する感受性の強いウェルテルは片想いの相手シャルロッテに対する恋情を加速させて女神のように想う。彼女の結婚により、懊悩し命を絶つ。ロッテを取り巻く俗物的な人間関係と、ウェルテルの崇高な内面や田舎の綺麗な自然との対比が印象的。天才が仮託した美しい魂が滅んでいく悲劇はどこまでも悲しい。
『ロカ』中島らも
巨額の印税を抱えた無頼の老年作家が主人公。アルコール、ドラッグ、ロック、反骨など、中島らもらしさが詰まっている未完の小説。ドアーズ、ローリングストーンズなど昔のロックが好きな人には楽しめる要素がいっぱい。擦り切れた心象が多い中、ククへの片思いがピュア。
『サロメ』オスカー・ワイルド
キリストが生きていた時代のユダヤの王女サロメと、救世主の到来を激しい言葉で説く洗礼者ヨハネの話をモデルにした戯曲。芸術至上主義者の表現だけあり言葉が文芸の極みで、サロメの狂った恋とそれが齎した聖書に書かれている悲劇が、完璧な芸術と化している。
『その雪と血を』 ジョー・ネスボ
ノルウェーのマフィア界を舞台に、ハードボイルドであるが善人である主人公が波乱と恋愛のなか殺し屋をやっている話。北欧のクリスマス前の夜の寒さの中、女、ボス、裏切りに翻弄されながらどこか愚直に殺しをする主人公の姿は、雪の中で寂寞のリリカル。
『マツリカ・マジョルカ』相沢沙呼
廃墟ビルに一人で住む魔女めいた謎の美少女マツリカさんと、主人公の冴えない男子高校生の話。学校の怪談、学校で起こるちょっとした事件を中心としたミステリー以外にも、恋愛や青春など色んな要素があるなか、なによりもマツリカさんの存在感が圧倒的。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹
全く異なった二つの世界が交互に語られて、終盤にいくにつれて両世界の繋がりの秘密が明かされていくという話の構成。世界が失われる悲しみや失われてほしくない願いが両主人公の回想や感慨を通して漂う、その悲哀の表現が文学的。
『プシュケの涙』柴村仁
冒頭で起こってしまった美術部の女子高生の死、その真相を解明していく変人っぽい男子という青春ミステリとして進行しながら、中盤で起こる男子の突然の逸脱行為。最後に近づくにつれその理由がだんだんわかってくる切なさに、恋愛の話としての面白みもある青春小説。