2025年4月3日木曜日

小説評2



『読書する女』レイモン・ジャン

家を訪問して声に出して本を朗読するという仕事を始めた女性主人公。訪問先の客たちとの交流でちょっとした出来事がいろいろ起こる。癖のある客とのやりとりが生き生きと描かれている。最後、サド侯爵の本が絡む、男性3人との場面がコメディとして面白い結末。



『白紙の散乱』尾崎豊

Amazon

大人のモラルに激しく反逆したシンガーとして有名な尾崎豊だが、この詩集では静かな語調と純粋な眼で、街の風景に佇む悲しみが表現されている。街の風に漂う、傷つけられ汚されていく魂のため息、諦めの混じった祈りが、命の真実をニヒリスティックに点滅させている。



『R.P.G.』宮部みゆき

本当の家族とネットでの疑似家族、リアルとヴァーチャルの間で起こった事件。ロールプレイが繰り広げられる中、色々なレベルでの嘘や虚構によって、人物の真実が徐々に暴かれ、事件の真相が明かされていくという、構造の面白いミステリー。読みやすく品のいい語り口。



『すみれ屋敷の罪人』降田天

Amazon

戦時中の不幸と、由緒ある家系と忠義に満ちた使用人たちの切情が生んだ、嘘。老人となった当事者たちが謎につつまれた出来事のそれぞれの局面を語るとき、昔のすみれの屋敷の悲劇が2転3転しながら解き明かされる。悲劇がミステリーの手法で花開いていく涙の傑作。



『とある飛行士への追憶』犬村小六

貧しいが凄腕の飛空士がお姫様を戦闘機に乗せ、敵機の多い戦域を単機で突破する話。全く身分の違う二人だが生死を共にする数日間で芽生える恋が爽やかで切ない。空、海、島などの自然描写が美しく、戦闘シーンは迫力がある。ラストが印象的で絵になってる。


0 件のコメント: