2025年1月7日火曜日

小説評1

 

『精霊の守り人』上橋菜穂子
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水の精霊の卵を産み付けられた皇家の少年を手練れの女用心棒が守りつつ旅する話。人類学者である作家によって描かれた、言い伝えにみられる自然と人間と精霊の共生、皇国の政と原住民神話などの世界観が良くファンタジーや冒険譚としても感動がたくさんある。


『ビルマの竪琴』竹山道雄

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ビルマに出兵した或る日本兵の隊はみんなで歌をよく歌う。竪琴の名手、水島上等兵が居なくなったわけは? アジアの仏教徒の穏やかな文化、対照的な文明国の進歩と戦争の悲惨、それらを感じ取り浮世を捨てた宗教性が、飾りのない言葉で表現されていて素晴らしい。


『夜間飛行』サン=テグジュペリ
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命を懸けて空を航行する飛行士と、地上で夜間郵便飛行の司令にあたる社長の、苦難の一夜の話。飛行士をしていた著者によるリアルな叙述でありながら、あちこちに素晴らしい文学的ポエジーが溢れている。嵐を抜け出したひとときの夜の上空の描写が神秘的。


『嘆きの美女』柚木麻子
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美人たちのお悩みサイトを、ブスとよく言われるニートのオタク女がネットで攻撃していたが…彼女が当の美人たち4人と同居することになり…全く性質の違う美人とブスが一緒に暮らすドタバタの悲喜劇の中、ストレートに言動をぶつけ合い成長していく姿が素晴らしい。


『地獄の季節』アルチュール・ランボー

20歳過ぎでアジアやアフリカの荒野に消えたランボーが残した文学や西洋への絶縁状。野性の無垢な天才が詩で錯乱しながら原初に還っていく時、詩魂の心臓をダイヤモンドにして燃やすかのような散文詩の独白に文学的奇跡の謎の内部が形象されている。


『その女アレックス』ピエール・ルメートル
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始まりはある女が誘拐され監禁されるところから。そしてパリの連続殺人。警察の目は事件が明らかになるにつれ「その女が何者か」にシフトする。真相を推理するミステリーとしても面白いが、1人の悲しい人間の命をかけた復讐劇としても凄い作品。


『時をかける少女』筒井康隆

放課後、理科室で怪しい薬の試験官が割れ、ラベンダーの香りにつつまれた後、少女に不思議なことが。タイムリープやテレポーテーションなどSFの設定のもと、思春期の少女の甘く切ない感情が、不思議な少年の齎した未来現実として素晴らしい結晶と化している。


『その雪と血を』 ジョー・ネスボ

ノルウェーのマフィア界を舞台に、ハードボイルドであるが善人である主人公が波乱と恋愛のなか殺し屋をやっている話。北欧のクリスマス前の夜の寒さの中、女、ボス、裏切りに翻弄されながらどこか愚直に殺しをする主人公の姿は、雪の中で寂寞のリリカル。


『プリズム』百田尚樹

多重人格の男の1人格に対する恋の話。病気の背景から説明まで詳しく描かれていて、珍しい疾患についてよくわかるように書かれている。男の病気の治療と女の恋の成就の両立の不可能性が、解消しえないジレンマとなる中、治療が進んでいくのが切なくて感動的。




Xアカウント @Haya23123 より

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